表参道マック

に行った。マックだけどファッキンなことが起きた。←この表現はちょっとしたユーモアというやつだ。
 店内はなぜだか非常に混んでおり座席を確保するのさえやっとであった。私がようやく見つけた二人がけのテーブルについて卵バーガーセットを食べ始めるとまもなく、中年ビジネスマン宇梶(仮名)が私の向かいの空いた椅子を指して言った。
「すみません、ここ使わせてもらっていいですか」
 かくして私たちは相席となった。向かいの席に宇梶がいるのといないのでは、そりゃあいない方が望ましいけれども、この混雑下やむをえない状況であった。私は坂東のように寛大だった。宇梶は自分の名詞デザインを3パターン印刷してみたものをまじまじと眺め、レイアウトやフォントなどさまざまな観点から比較検討し始めた。それが済むと今度は「秋の収穫祭」と書かれた居酒屋のメニューの下書きのようなものを眺め、それに関するダメ出しのようなものを白い紙に書き始めた。
「サザエを・・」
 マックでサザエに思いを馳せるのは容易なことではないだろうと、私は余計なおせっかいをした。そのとき、彼がどうもかんばしくないものを取り出したのを私は目の端でとらえた。タバコとライターだった。私は室内でのタバコの煙というものが非常に苦手で、ことに食事中に面と向かって吸われてはこの卵バーガーの美しいハーモニーが台無しだと思った。おそらく私の顔はこわばった。そして身を固くして彼がタバコを吸いだすのを待っていた。しかし彼は動きを止めた。
「あの、タバコ吸っても大丈夫ですか?」
宇梶はジェントルマンだった。しかし同時に彼の心遣いから生まれたその言葉は私にとってあまり意味のあるものではなかった。私は、面と向かって「いや、ぶっちゃけ苦手なんです」という勇気を持ち合わせていなかったと同時に、とっさに「妊娠してるので、、ちょっと、、」というもっともな言い訳を口にできるほど賢くもなかったのである。ちょっとだけ不機嫌な顔つきと声で「・・あ、はい」と言うことぐらいが私の精一杯の抵抗だった。むろん宇梶は何食わぬ顔でタバコを吸い始めた。私はタバコの煙に我が至高のバーガーが侵されぬよう、包み紙を盾にし、バーガーを鼻すれすれに近づけて食事を続けた。
 食事が終わりかけた頃、ふと宇梶が席を立った。そして「ジェントルマン」と書かれた扉の向こうに消えていった。ジェントルマンであることを自負しているらしい。私の前には灰皿と、そこに立てかけられた吸いさしの長いタバコだけが残された。そこに、神の啓示が下った。いや、ネ申の啓示だったといってもいい。復讐せよ。
 私は注意深くその吸いさしのタバコをつまむと慣れない手つきで火を消し、自分のトレイの上にそれを置いた。そして、数本残っていたポテトの中から、長さ、太さ、そしてまとっている雰囲気などの観点から先ほどのタバコに一番近いだろうと思われる一本を選び出した。
 そしてその選ばれし一本のポテトを指でつまむと、先ほどのタバコが立てかけられていたのとちょうど同じ場所に同じ角度で灰皿に立てかけ、荷物をまとめるとそそくさとその席を後にした。

 無意識に灰皿に立てかけてあるものを人差し指と中指の間にはさみ、「秋の収穫祭」を眺めながら口元に運ぶ宇梶。
宇梶「あれ、これタバコじゃなくね?てかポテトじゃね?いやーとんだ収穫祭になっちゃったな、弱ったなこりゃ(笑)」